北海道の雄大な自然と、その中に佇む歴史的な鉄道施設は、映画やドラマのロケ地として特別な魅力を放ってきました。特に、古き良き時代を象徴する「木造駅舎」や「腕木式信号機」といった要素は、作品のノスタルジックな世界観を作り上げる上で欠かせません。
本記事では、北海道の鉄道ロケ地を巡る際に役立つ主要な用語の意味を解説し、それらが今も見られる具体的なスポットをご紹介します。映画ファンや鉄道ファンにとって、聖地巡礼をより深く楽しむための「保存版用語辞典」となるでしょう。
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ノスタルジーの象徴「腕木式信号機」とその役割
北海道のロケ地を語る上で欠かせないアイテムの一つが腕木式信号機です。これは、信号機の腕(腕木)の角度によって列車の運転士に進行や停止を指示する機械式の信号機で、色灯式信号機が普及する前に広く使われていました。
腕木式信号機の仕組みと見つけ方
腕木式信号機は、遠く離れた信号扱所からの操作を鉄索(ワイヤー)の張力によって腕の角度を変えることで現示を転換します。
- 停止現示(最も制限的な現示):腕木が水平に突き出ている状態です。
- 進行現示(制限のない現示):腕木が下に回転したり、上に回転したりしている状態を意味します(方式により異なります)。
この信号機の大きな特徴は、停電や鉄索の破損などにより動力が失われた場合でも、重力によって腕が水平(停止現示)の位置に戻るように設計されている点です。これは、安全を優先するためのフェイルセーフの考え方に基づいています。
現在、現役で使用されている腕木式信号機は少ないですが、北海道のロケ地として有名な幾寅駅(JR根室本線)の駅構内には、腕木式信号機が残されています。また、廃線となった旧JR深名線の沼牛駅跡には、駅の保存活動を行う地元有志の方々によって、ランドマークとして腕木式信号機が設置されました。
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映画の舞台として愛される「木造駅舎」の魅力と現実
木造駅舎は、北海道のロケ地として最も頻繁に登場する舞台の一つです。特に板張りの木造駅舎は、現役で残っているものが少なくなってきており、その佇まいが過去の物語や情景を呼び起こします。
往時の雰囲気を残す現役駅舎
現在も営業している駅の中には、昔ながらの雰囲気を残す木造駅舎が点在しています。
- 釧網本線 藻琴駅・北浜駅・止別駅:日中は観光客が訪れることが多いですが、朝晩は往年の静かな雰囲気が味わえます。止別駅にはラーメン屋、藻琴駅には喫茶店が入居しており、簡易委託駅の業務を兼ねる形で昭和60年前後に入居してきたとされています。北浜駅のすぐ脇には流氷展望デッキもあります。
- 函館本線 仁山駅:新函館北斗駅の隣駅でありながら、新幹線の駅の隣とは思えない雰囲気のある駅舎が残っています。
- 宗谷本線 雄信内駅・抜海駅:雄信内駅は「由緒正しい、昔ながらの木造駅舎」の雰囲気を残しています。最北の木造駅舎である抜海駅は、稚内市が予算を組んで維持費を捻出しているものの、いつ廃止になってもおかしくない状況にあるといわれています。
映画ファンが集う廃線後の保存駅舎
廃線になった後も、地元の熱意によって保存され、ロケ地としてファンを惹きつけ続けている木造駅舎も多くあります。
- 根室本線 幾寅駅(幌舞駅):映画『鉄道員(ぽっぽや)』のロケ地として有名です。駅舎正面には劇中の駅名である「幌舞駅」の駅名板が今も掲げられています。駅舎内は撮影資料館となり、高倉健さんが着用した駅長のコートや小道具などが展示されています。
- ロケセットの維持:幾寅駅前には、撮影のために建てられた「井口商店」「だるま食堂」「平田理容店」の3つのロケセットが、地元の強い熱意により維持されています。
- アクセスと注意点:2016年の台風被害により、幾寅駅を含む区間(新得駅~東鹿越駅間)は不通となり、代行バスが運行されています。
- 留萌本線 恵比島駅(明日萌駅):NHKテレビ小説『すずらん』(1999年放映)の主要ロケ地です。駅舎だけでなく、駅長官舎や馬小屋、駅前の街並みまで、大正・昭和初期の様子が再現されたセットが観光施設として保存されています。
- 函館本線上砂川支線 上砂川駅跡:倉本聰監督のTVドラマ『昨日、悲別で』の舞台となった駅で、駅舎内に当時のグッズが残されています。
木造駅舎は、北海道の厳しい冬の雪によって劣化の進行が非常に早いため、維持管理には多大な経費がかかり、いつ撤去されてもおかしくない状況にあるという声もあります。そのため、保存されている駅舎を訪問する際は、その維持に携わる地域の方々への配慮が大切です。
大規模ロケーションの舞台:アーチ橋梁群と施設利用
北海道のロケ地は駅舎だけにとどまらず、壮大な土木構造物や鉄道施設そのものも魅力的な被写体となっています。
旧国鉄士幌線 アーチ橋梁群
旧国鉄士幌線(1978年に一部廃止)の糠平から十勝三股にかけてのダム湖には、タウシュベツ橋梁をはじめとするアーチ橋梁群が残っています。これらのアーチ橋梁群は「北海道遺産」にも認定されており、その美しい姿は廃墟ブームの中で人気を集めています。
地域では、これらの遺産を活かしたまちづくりが進められており、日常の管理や鉄道資料館の運営が行われています。再現された線路を利用したトロッコ列車が地元の観光資源となっているほか、第三音更川橋梁など複数のアーチ橋とトンネルが国の登録有形文化財に指定されています。
JR北海道の鉄道施設をロケで利用する際の注意点
映画やCM、雑誌などで現役のJR北海道の列車や鉄道施設(駅・駅構内施設など)をロケで利用したい場合は、「株式会社 JR北海道ソリューションズ」のロケーションサービスを利用できます。
利用に関する主な注意点と費用(法人向け)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 原則として法人様のみ申し込みが可能とされています。 |
| 禁止事項 | 公序良俗に反する内容や、JR北海道及び鉄道に対するイメージを失墜する内容は、撮影することができません。 |
| 調整料金 | 立会が発生しない場合は5,000円(税込5,500円)、立会が発生する場合は10,000円(税込11,000円)が必要です。これは事務手数料やJR北海道との調整のための料金です。 |
| 立会料金 | 9時から17時の間の4〜8時間の1日料金は60,000円(税込66,000円)です。立会料金は、現地への移動時間や現地からの移動時間も対象となります。 |
| 移動・宿泊費 | 交通費は実費、前後泊が伴う場合は移動人件費(1泊20,000円/税込22,000円)や宿泊費(1泊10,000円/税込11,000円)が別途加算されます。 |
| 撮影規則 | 列車運行や駅業務に支障しないこと、お客様の安全確保を優先することなどが遵守事項とされています。また、ホームや列車内での三脚・脚立・長尺機材の使用は禁止されています。 |
| キャンセル料金 | 撮影3日前〜前日は利用料金の50%、撮影当日は利用料金の100%が発生します。 |
このように、JR北海道の施設での撮影は、鉄道施設の安全運行を最優先するために、細かく規則が定められ、費用も発生する仕組みです。
まとめ
北海道のロケ地を巡る旅は、単なる観光ではなく、歴史を刻んできた鉄道の設備や、地域の方々の熱意に触れる機会を与えてくれることでしょう。
映画『鉄道員(ぽっぽや)』で高倉健さん演じる駅長が立っていた幾寅駅のホームや、ロケの際、線路に対して高い位置にあるホームに上がる階段の構造が、登場人物の心情を表すものとしてロケ地に選ばれたというエピソードは、その場所が持つ意味の深さを示しています。
木造駅舎が厳しい自然の中で今日も佇んでいること、そしてその姿を守り継ごうとする人々の想いが、訪れる私たちの心に静かに響くはずです。北海道の鉄道遺産を巡る旅に出かける際は、これらの用語や背景知識が、旅の情景をより豊かにする手助けとなるかもしれません。
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